広葉樹の植林について

近年、森のイベントとして広葉樹の植林が行われている。記念植樹的なものもあれば、風倒木被災地への植林、水源涵養林としての植林など、目的は様々である。針葉樹でなく広葉樹が選定される理由は、後者のほうが水源涵養や生物多様性、風致などの機能に優れているからである。

しかし最近、「本当に広葉樹種の植林は、里山保全に効果的なのだろうか?」という疑問が、私の中で益々強くなってきている。

例えば、里山林の保全のために、ボランティアでヤマザクラケヤキを植えましょう。下草刈りにもお出でください。

樹木と森を育てるという労働について、広葉樹であっても長年の下草刈り作業を必要とする。そこに、針葉樹と広葉樹間の大きな違いはありません。
また、ヤマザクラケヤキを植林した理由は、将来、柱や家具材の木材として収穫することを前提としており同様である。林業を主軸とした施業方法といえよう。

林業を営みの基盤とする山村では、収益源としてこのような森づくりを進めている。これは、山を生活の基盤とし、管理する人がいるからである。

しかしながら、広葉樹の植林活動地について、これに該当しないのではないかというサイトは少なくないように思う。ボランティアが植林し、100年後以降の収穫期のために、10〜20年の間、下草刈りを継続する山主さんがどれだけいるだろう。ましてや、ボランティアによる管理については、草刈十字軍などにはじまる森林ボランティアを中心とした一部の層に留まっている。

今、ゼミの輪講で下記の文献を読んでいるが、次のようなくだりがありました。

"The easiest way to create a new wood is to take a piece of land and to do nothing to it." Oliver Rackham, The Last Forest The Story of Harfield Forest.

「最も簡単な森(雑木林)の作り方は、土地の一角で何もせずに放置しておく方法です。」
里山における伝統的な雑木林管理は、広葉樹の天然更新力を最大限に利用します。例えば、根元や高い位置で伐採し、萌芽させたり、高木を点々と切り残して、下層木の柴刈りを行うなどの施業方法です。薪や炭などの細い材と、建築木材などの太い材の両方の収穫がなされてきました。

この場合、広葉樹の植林は、丸太材の収穫を目的とした林内に点在する高木の伐採後に行われます。周辺の雑木は、あくまで萌芽更新されるのです。

伐採収穫する高木の密度をどの程度にするのかという事に尽きるのですが、里山保全森林ボランティアを行う場合は、私達の労力と目標とする森林像を明確にした上で計画する必要があります。

環境に良いからといって、高密度に広葉樹の苗を植林する方法は、近代林業の施業管理方法を前提としており、全ての植林ボランティア活動地に適しているとは限りません。

福岡市では、油山の森を育てる会がアカマツ林の下草刈りや落ち葉かき作業をしたり、こうのす里山くらぶが、落葉広葉樹保全のために、その周辺の常緑広葉樹の拓伐作業を行っています。いずれも、優占木の高木林を将来像とし、水源涵養だけでなく、種の多様性や風致にも寄与する人と森の動態保全活動を進めています。

「広葉樹の植林」という言葉や行為が、里山環境保全プロパガンダにされることが危惧されます。様々な森づくりの選択肢を増やし、地域に伝えていくことが大切ではないでしょうか。

放置して何もしないという方法も、周囲に竹林が無く、種の供給源が隣接地や埋土種子から確保される場合は、有効であると思われます。多様な森づくりのできる地域づくりとは、どのようなパートナーシップによりできるのでしょうか。林業を超えた地域の枠組みが必要だと思われます。