九大伊都キャンパスにおける森と生き物の未来

asahiro2006-02-18


本日は、下記のシンポジウムに参加しました。

第4回シンポジウム
九大伊都キャンパスにおける森と生き物の未来 −大学・学生・市民の協働による里山保全を目指して−

このシンポジウムの趣旨は、「新キャンパス及び周辺地域の農村資源を活用した環境教育プログラムの開発とその実施のためのシステム構築」にあります。

このプロジェクトの背景には

  1. 学生の参加型の・体験型教育プログラムの必要性
  2. 新キャンパスの緑地空間管理の必要性(約100ha)
  3. 周辺地域における農村環境の保全の必要性
  4. 地域との連携・協働の必要性

以上の4つの背景があり、その1つの大学としての方向性として、環境教育プログラムの開発を目指していこうという提案です。

このプロジェクトは、九大のP&Pとして採択されており、私はアドバイザーとして関わらせていただきます。

さて、詳細は、おいおい書いていくこととして、今日の印象について少し触れます。

京都女子大学  高桑先生 

4年前の本シンポジウムでもご講演を拝聴させていただきました。とても、印象的な先生です。
キーワードは「生命環境教育」。
生命環境教育とは、自然観察に基づく体験的な学習活動を通して、生き物の精緻さ・不思議さに驚き、自然生態系の観察から「いのちの大切さ」を学び取る。ということだそうで、豊かな感受性と優れた知性を持った人間を育むことを目的とされています。
文献:高桑進, 京都北山京女の森, 2002.

私がとても共感を得たのは、「学生に生態系を理解させることは難しい、しかし、感じさせることはできる。」という点です。
少人数の観察会を山村都市交流の森(京都市左京区大原の奥、24haの二次林)で実施されており、関心の無い人々に、如何に関心を持ってもらうかということに焦点をおかれていました。

龍谷大  土屋先生
里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センターの様々な活動を紹介していただきました。
落ち葉かき隊、道つくり隊、里山アート、むしむし探検隊、シイタケの植菌、歴史の重層性の掘り起こしなどなど。いずれも、体験学習をベースとしながらも研究テーマとして位置づけており、とても精力的に行われています。
先生は、今後の課題として下記の指摘を行われました。

  • 地方自治体とのネットワーク
  • 成り立たない農業経営に対する工夫
  • 地域の固有文化の掘り起こしと記録
  • 地域固有性に基づいたオリジナルなプログラムの開発
  • 研究成果に基づいた地域交流。貢献(公開講座総合学習
  • 住民の要望の実現ができる交流の場作り
  • 多世代交流

これらは、いずれも、どこの地域でも抱えている同様の課題だと思われ、それぞれに対する方向性について、今後、一緒に考えていければと思われました。

さらに、午前中のディスカッションでは、体験教育の重要性について、高桑先生の下記の意見が印象的でした。
「体験を通じて身に付いたものは、単なる知識ではない。
これからの若い人達は、里山や伝統文化を現場で体験するということに意味がある。」


九州大学 矢原先生 (基調講演) 
「伊都キャンパスの生物と共生を続けるために、自然再生事業に向けた協働のあり方」

伊都キャンパスにおける生物多様性保全の柱は、

  • 257haの用地内で暮らす生物の全種保全
  • 森林面積を減らさない

の2点であり、特に、植物・水生生物・哺乳類の徹底した保全に向けた取り組みについて説明されました。さて、詳細の報告は割愛します。

重要なのは、これからの展望と課題です。

まず、展望として指摘されたのが

  • 苗を育て、森を作る
  • 水辺の生き物を見つめ続ける
  • 人も生き物もあつまるキャンパスづくり

共通テーマが

  • 森や生き物を大切にする暮らし
  • 自然の中で子供たちを育てる。

解決が求められているテーマが

  • 具体的な目標・計画の明確化・共有化 (チームワークとして上手な仕組み)
  • ボランティア・地域・大学・行政の連携(自然再生事業をめざしてはどうか?)

そして、九州大学自然再生事業のビジョンとして

  • 市民参加型のモニタリングや研究
  • 子供たちを育てる
  • 経済的自立 人と里山の新しい関係

これらを実現する人のネットワーク、生態系、生物多様性、農業をセットにする、そのような「一枚の絵を描くこと」を行いませんか? と提起されました。

最後のディスカッションでは、水のこと、学生と生き物の共生、リスク回避と現場管理、キャンパスの地域への開放性、大学における知識と自主性の教育の方向性、小中高生という次世代への教育などについて議論が行われました。

今後の課題

さて、長々と書いてきましたが、これから関わる私としては、現在の課題を整理し、どこの部分に寄与できるかということを明快にしていきたいと考えています。

主に今回出された課題を、以下のようにリスト化しました。

1.環境教育プログラム及び学生教育について

  • 如何に一般の学生を里山に呼び出すか?
  • 従来の学力評価とは馴染みがたく、どのように評価するのか?
  • 専門家である教員は、どのように参加し、噛み砕いて実施できるか?
  • 教育科目として導入できるか?
  • 履修した学生が、自ら率先して活動できるリーダー的資質を持つことができるか?
  • 科目の中に、講義、体験だけでなく、一般市民とのコミュニケーションを導入できるか?
  • ボランティア活動的な科目であり、単位履修は合目的ではないのではないか?

2.プロジェクト・マネージメントについて

  • 現在行われている各種事業の連携をどのように取るのか?
  • それぞれの事業を経済的にどのように自立させ、継続的な実施を担保するか?
  • プロジェクトに関わる人材を、どのように育て、また、雇用するか?

3.クオリティー・システムについて

  • リーダーなどの人材養成をどのように行うか?
  • リスク回避、現場管理などのカリキュラム、品質管理をどのようにするか?

4.地域とのパートナーシップについて

  • 地域のパートナーシップとして、どのように事業化するのか?
  • 市民参加型のモニタリングや研究をどのように展開するか?
  • 小中高の総合学習などの受入れを、どのように行うか?
  • モチベーションの高い人材・活動を、どのように構築し連携させるか?
  • 地域の農業と環境保全活動のマッチングをどのように行うか?

さて、今回のシンポジウムは、1.の課題を中心に据えて企画が行われました。
しかしながら、矢原先生のアドバイスや地域からの意見として、2.4.が指摘され、また、私からは3.を指摘しました。

まず、1.については、学生が最初の一歩を踏み出す「体験」の提供として、講座とセットで教育プログラムに組み込むということが課題でしょう。
一方で、2.3.4.を実行していくには、対学生に対しては、アドバンスト・コースを用意する必要があります。
そのインセンティブは、単なる各自のボランティア精神や楽しさに頼るのではなく、「技能の習得」や「認定」などの、プログラムを通じた能力開発と、その能力に対する評価、そして、フィールドの提供という継続的な機会の提供が不可欠であると考えます。

さて、事業という観点から考えると
2.については、景観保全協議会の立上げと、景観保全区域内における各種事業の報告・調整機能を持たせることが考えられます。景観保全協議会内に基金を設け、管理計画を推進する補助制度を備えることで、戦略的な活動が展開できるものと期待されます。経済的自立は、そのようなアイデアを求めていけば良いのではないでしょうか。このような活動を行うための有給スタッフと事務局の確保が必要です。

3.は、1.とも関連が出てきますが、シラバスと講師、プログラム、修了生などの品質管理です。品質は授業を受けて担保されるのではなく、現場で適切に身体を動かし、地域の人々とパートナーシップが取れて実現されます。そのシステムの構築と、実施が必要です。

4.は、上記の活動が実施できれば、ほぼ、解決に向けて歩みを進めていくことができると考えられます。
最終的な課題は、地域の農業と環境保全活動のマッチングです。経済基盤の強化は、農業だけで考えるべきでなく、教育、ツーリズム、加工・物販なども併せた検討が必要です。

え〜、次は、私の関わり方を計画していきたいと思います。

参考:矢原先生のブログ