国際里山田園保全ワーキングホリデー実行委員会

10月10日の夕方に標記の会議がもたれ、9月に実施したワーキングホリデーの反省会と、来年度の計画について会議を行った。

国際ワーキングホリデーについては、山村塾のサイトを訪ねてください。
http://www.h3.dion.ne.jp/~sannsonn/

今年度の反省事項などは、報告書などに譲るとして、来年度の計画について、下記のような議論が行われた。

椿原さん
「9月石積みは、農林家の習慣として実施する時期ではなく、このミスマッチが地元の理解を得る壁となっている。石積み適時期である10月〜11月、もしくは3月へ実施時期の変更を検討していただきたい。」
重松先生
「本イベントをBTCVと開始するにあたり、BTCV国際事業部のAnita Prossor氏から指摘されたのは、最も人の集まる夏休みに実施してくださいとのことだった。日本では長期休暇を取る習慣がないため、従来の10日間を7日間に短縮するというのは良いが、8、9月をはずし、他の時期に実施するというのは、より多くの人々に参加の機会を提供するという本イベントの趣旨に合致せず、好ましくない。また、現在の企画は、研究室の学生もサポートしており、卒論・修士論文の忙しくなる10、11月に学生を供出することはできない。」

と、大きな争点は、この二つの意見に代表される。この議論は、数年前から毎年繰り返されている議論で、例年、学生の参加しやすい時期ということで9月末に決定されてきた。

本イベントは、来年10周年を向かえ、一つの形態として成熟してきた。今後の活動は、これまでの活動を踏まえたうえで、今後の10年を見据え、新たなステップを踏み出すことが求められている。

議論を整理するには、まず、達成すべき目的の優先順位を設定する必要があると考える。

本イベントは下記の五つのテーマを掲げている。
 1) 地域の活動と、農山村環境を知ろう!!
 2) 実体験を通じ、里山・田園の自然風景を守ろう!!
 3) BTCVなどの海外NGOの協力により、持続的環境保全活動の幅を広げよう!!
 4) 体感を通し、ボランティアとしての素養を身に付けよう!!
 5)旬の食材で作った本物の郷土料理を味わおう!!

事務局の一員として、私なりにレビューを行いたい。

1) 四季菜館の竣工と併せて開始されたワーホリは、多くのリピーターの方々に来ていただけるようになったという点で、参加者の方々には、深く、四季菜館、山村塾、笠原の地域環境のことを知っていただくことができたと評価できる。一方、地元の方々はどうであろうか。地域に理解を広げ、このような活動を広げていくということが、山村塾の大きな理念の一つであり、これを実現する一つの装置として、ワーホリの企画立案が行われてきた。稲葉さんをはじめ、石積み指導を継続的に実施してきていただいてきた方々、また、山林指導に関わっていただいた方々など、一緒に作業を行うことを通じて、一定の理解をいただいてきたといえる。また、開催パーティーに毎回顔を出していただいてきた黒木町町長、石積み修復への助成制度新設や、ボランティアの移動に必要な車両として町用車の提供など、役場の参加もいただけるようになった。これも、山村塾の取り組みが、町の取り組みとして社会化されたと高く評価することができる。最近、山村塾通信には、まり子さんの談話で、近所の方から、「うちの棚田も修復してもらえんやろうか」云々の話が紹介されており、景観保全ボランティア活動が、認められ、定着した一例と読むことができる。しかしながら、椿原さんが指摘するように、活動内容を地域の農業の暦に合致させなければ、これ以上地域の活動として定着させ、広げることは困難であるという指摘はその通りであり、9年間続けてきたにもかかわらず、ワーホリの活動以外で類似の活動がないということが実証している。山村塾がなければ、ワーホリができない、ボランティアの方々に機会を提供できないというのでは、持続的な将来性を担保することができないといえる。地域の活動と農山村の状況をより多くの人々に知ってもらい、より多くの地域の人々の理解と、関わりを得るには、地域の農林業を中心とした四季折々の生活に合わせたプログラム化が必要不可欠であり、そこにすり合わせていくことが、最も効率的であると思う。

2) 景観保全という観点から、本企画では、スギ林の管理、散策路づくり、棚田の修復を主に実施してきた。また、早朝の農林体験や、四季菜館の賄い、小学校との交流事業も、地域を知り、輪を広げるという趣旨で取り組まれてきている。いずれも、この笠原地区の景観を構成する主要な自然風景であり、必要とされる活動であることから内容は適していたと考える。しかしながら、作業項目はこれだけであろうか?山林で言えば、風倒木被災地には相変わらずスギが植栽され、管理者不足にもかかわらず台風被害を繰り返す負の連鎖は何も変わっていない。棚田についても、少子高齢化の中、放棄農地が広がりつつあることには変わりがないのである。ボランティア活動は、単なる労働ではなく、都市民への機会の提供と共に、行政、地元と協働で行う、新しい取り組みでなければならない。今後、この地域の景観保全を実現していくために、何をしなければならないのか、そこに、行政・地域の明快な政策・考え方と、それを実施するボランティア活動、地域活動の共同事業体のあり方が模索されなければならない。ワーホリについても、その文脈の中で、新たな作業内容を選定しなおす必要性があるといえる。

3) 私達はBTCVのリーダーとボランティアを招くことで、彼らのボランティア精神や実施ノウハウの一端を現場で学んできた。9年間の活動の中で、それは、体験された方々の身体に染み付いてきたと思う。ワーホリを経験してきた人々が、各地で活躍している状況を垣間見れば、その実績は計り知れない大きさであったと評価できる。一方、ワーホリの運営体制はどうであろうか。山村塾と重松研究室の協働事業として、地域や各種財団の支援をいただきながら実施してきた。BTCVと共に育てるべきリーダーは、小森君が地元に定着したり、西村さんや大久保君、妹尾さん方が継続して関わっていただいていることなど、成果を上げているといえる。しかしながら、毎年グループリーダーの確保に苦慮し、毎年卒業していく研究室の学生にお願いする構図が続いている。もちろん、学生の実地体験の場として有効であったことは確かであり。研究室にとっては、大きなプラスである。しかしながら、大学とでなければ黒木町でワーホリができないという構図は、非持続的であり、9年間、この部分について何をしてきたのかと指摘されてもやむを得ないであろう。リーダートレーニングのシステム構築が、必要不可欠であるといえる。

4)を飛ばし5) 四季菜館の料理は、いつも最も参加者に好評をはくしてきた。最も印象深く、食事と農山村の大切さを理解していただく最も効果的な料理であったと評価できる。一方、では四季菜館以外ではどうであろうか? グリーンピア八女のことは良く知らないが、先日行った里山保全体験ツアーにおいて、地元の方々に提供いただいた食事の数々は、地元の食材がふんだんに使われ、とても美味しくいただきました。地元の婦人会の方々にお願いするときに、うちの学生は「BBQがいい」とリクエストしましたが、お母さん方からは即効拒否され、やはり、地元の野菜をふんだんに使った料理にしようということでお願いすることができました。都市住民の農村体験、また、地元にとっての交流活動という点において、「地元の料理を食す」といことは、労働の成果、環境の成果を確認する不可欠な要素だといえる。以上のことから、四季菜館だけでなく、各地域でワーホリを受け入れいてく素養は、十二分にあるというのが、私の印象である。

さて、ワーホリの自己評価が長くなったが、今後の10年を見据え、持続的な活動へと展開するために必要な項目、また、その順序はどうあるべきであろうか。私なりに、以下のような序列を例示してみる。

1.国際ワーホリの継続
BTCVと協働する山村塾の年一回のイベントとして、当面、継続することが望ましい。そのためには、多くの人々に参加の機会を提供しやすい、8〜9月、
もしくは3月に設定することは避けられない。休暇時期でない事業が参加者を集
めるのがどれ程難しいことか、それは、これまで十二分に辛苦を舐めてきている
はずである。安易に、1週間にもわたる事業を計画することはできない。
そもそも、英国と日本では休暇に対する認識が違う。日本に併せた形態をとらな
ければ、決して成功し、普及することはできないことを肝に銘ずるべきと思う。
作業内容については、この時期に適した内容を検討すべきであろう。

2.地域への展開
1.の場合、ワーホリの主要事業であった棚田の石積みを実施継続することは困難である。
ここは、プラスに考え、棚田の石積み適期である10〜11月にかけて、土日を中心としたワーキングホリデーを実施してはどうだろうか。他の作業内容についても、その適期に事業計画ができる柔軟な運営体制のとれることが望まれる。

3.リーダートレーニングシステムの構築
多時期、他地域でのワーホリの実施、また、大学の関わりを減らしていくという意味で、リーダーを養成し、継続的に支援していくシステムの構築が不可欠である。そもそもBTCVの目的は、どちらかというと環境改善よりも、リーダーの育成に重きを置いており、人々が去り行く中、如何に新たなキー・ボランティアを発掘し、トレーニングしていくかということに、最大の関心を払っている。全てのボランティア事業は、新規人材の発掘のために行っているといっても過言ではない。もちろん、この傾向は普及啓発という使命と合致している。黒木においても、小森君以外のリーダーが公式に関われるような、また、そういう人々をサポートできるようなシステムの構築が望まれる。

以上の3点を考え、私は、次回の国際ワークの実施時期、実施内容を下記のように結論付ける。

実施時期:8〜9月
実施内容:山林の管理、散策路づくり、耕作放棄地の管理など

また、以下の内容を提案する。
・ミニワークを充実させ、石垣修復を行う。(来年)
・リーダートレーニング、広報システムの構築について、黒木、福岡、東京、英国間で準備する。(3年後に立ち上げ)
・元笠原東小学校の取り組みについて、持続的な事業・運営形態を決める。(2年後)

以上は、あくまで一案である。他時期での実施も不可能ではなく、検討に値するといえるが、その場合、国際ワーホリではなく、国内対象のワーホリの充実となろう。また、私の自己評価のような内容を踏まえた検討が必要となると思われる。

私個人としては、昨年、英国に滞在していたこともあり、最大の関心ごとは、トレーニングシステムの構築にある。次に、黒木の季節に合わせたプログラムの改変である。しかしながら、後者については、小森君をはじめ地元の方々がプロなので、皆さんのご意見をお待ちしています。