里山保全体験ツアー

竹で製作したスコップ(松尾区長作)


里山保全体験ツアー第一日目、大学生10名、高校生2名、中学生3名、スタッフ6名の陣容で福岡県八女郡黒木町の元笠原東小学校を訪問。
午前中はオリエンテーション。古いけれどもこぎれいな木造校舎の中を、皆、スタッフの説明を受けながら興味深そうに歩き回ります。
お昼は、婦人会の地元のお母さん方にお願いした料理をいただき、午後の作業は、放棄された竹林の除伐作業です。この地域の竹林は、かつて有明海の海苔養殖に使われたり、たけのこ、竹細工、自然に落ちる竹の皮を肉の包み紙や高級下駄に使用してきたそうです。現在では、いずれも代替品が普及してしまい、竹林管理がされずに密生化が進んでいます。

小雨のちらつく中、竹林の経緯や作業方法の説明を受けた参加者は、慣れないノコギリ、初対面のパートナーとぎこちない作業をはじめます。30〜40分、試行錯誤の作業後に小休憩を挟み、2回目の作業が始まると、その動きは、ちょっと、目を見張るものがあります。ノコギリを挽いては、「倒れるぞー」という声が響き、竹は運びだされ、次々に作業が進むのです。声をかけずとも自立的に身体が動いていく。私達にとって、Deligationできる段階とは、この時間帯をいいます。30分ぐらい作業をして、もう、撤収の時間ですが、のってきた作業を止めるのはとてももったいない感覚を感じるのです。今回は少しでも作業を進め充実感を味わっていただくように、15分延長しました。
小学校に、竹を運び、次は竹細工です。作るものは、箸とコップ。今日は、松尾区長の提案で、先日、種まきをした菜種の移植をするために、竹でスコップを40個作成しました。この竹製のスコップ、なかなかデザインがかわいいので、本日画像をアップしておきます。

夕方は、五右衛門風呂を沸かし、夕食時。本日は女性が多いので少々彼らの感想が気になりましたが、女子大生にも中学生にも好評でした。

夜、プログラムの一環として「農林家との懇談会」と称し、松尾区長に黒木町の今昔について30分程度講話をしていただきました。農林業を主とした山村の経済は厳しく、後継者がおらず、この小学校も閉校にいたったこと。歴史的に来年は八女茶発祥600年にあたること。お茶、米、野菜のほか、昔は、スギの伐採跡地を焼きソバを撒いていたこと。稲刈りの後は、立地の良いところにはムギ、悪いところにはナタネを蒔き、油を絞ったナタネかすは、大変良い肥料として重宝されたこと。拡大造林時にスギを植えるまでは、山はシイ、カシ林で、イノシシはあまり村に下りてこなかったが、最近は、山に食料がないために、イノシシが頻繁に農地を荒らすようになったこと。などなどです。

お話の後、このプログラムでは、グループ討議を行い、「小学校の活用方策について」議論・発表を行ってもらいます。本日印象に残ったのは、自然学校としての活用、ファームステイ、自然エネルギーや夜の闇を体験してもらうなど、環境に即した体験プログラムの可能性について、知恵をいただきました。また、閉校前の小学校の雰囲気がそのまま残っていることについて、それが良いという評価も新しい発想です。

私は、持続的な地域社会、閉校した小学校の持続的な活用方策ということを考えるにあたり、地域の農林作業との連携が最大の接点であるとみています。四季折々の仕事、生活、祭りがこの地域の暮らしであり、その姿、農地景観、作業を通じ、私は地元の方々との会話の端緒を開くことができると思うのです。また、都会の人々にとっても、四季を通じた農事と関わる事により、より立体的に、深く、農のある環境と、個々の都会生活との相対化を得ることができると思われます。

松尾区長は、「高齢化も進み、4〜5年後には、がらっと変わるでしょう」といわれました。最近の現代農業「若者はなぜ田舎を目指すのか」の巻頭論で、それは、戦後都会に出ずに、地道に土地を守ってきた人々に、若者は、進むべき方向性を見出しているからある。それは、段魂の世代が築いてきた現代社会の将来に、持続的な豊かな生活を見出しづらいという若者のアンチテーゼであるという論でした。
農林体験、農村帰農、グリーンツーリズムが現代の過疎化を救うと楽観的な見方をすることはできません。如何に過疎化を止め、山村社会を持続的な地域へソフトランディングさせ得るのか。この問いに対する、具体的な行動計画と実践が、今、求められています。この小学校の活動については、平成16年度まで科研調査を予定しています。平成17年度より、最小限の形で、都市の青年の農林活動体験事業が開始できるよう、準備を進めて行く予定です。

これまで、中学生コース、高校生コースを実施し、本日、同じ内容で3回目です。年齢が上がるにつれて、討議内容にでてくる単語も高度化してきました。しかし、それよりも、松尾区長方とこの活動を継続し、実績を積み重ねるたびに、この活動を確かに踏みしめ、将来の小学校の活用像の模索を、確かなものにしつつあるという実感を得つつあります。この実感を、報告書にまとめ、町長をはじめ町の方々に伝え、次に繋げるのが、今後の仕事です。