日本森林学会・日本木材学会公開シンポジウム

本日は、下記のシンポジウムが執り行われました。

森林・林業のゆくえ
−九州の現場最前線から−
2007年4月2日14時〜17時半、九州大学箱崎キャンパス
発表者:山田壽夫(林野庁元九州森林管理局長)、堀川保幸(中国木材(株)代表取締役社長)、安成信次((株)安成工務店代表取締役社長)、矢房孝広(諸塚村産直住宅推進室事務局長)、土井裕子(NPO法人五ヶ瀬川流域ネットワーク理事長)、寺岡行雄(儲かる林業研究会事務局長)
コーディネイター:佐藤宣子(九州大学大学院農学研究院助教授)

とりとめのない所感になってしまいますが、思うところを徒然に書きます。

本シンポジウムは「国産林の需要拡大は本物か?」ということについて、様々なデータや現場の話題提供を通じて、その動向が紹介・議論されました。結論としては、本物そう、ということでした。

発表では、国産材の流れとして、大きく2つの議論がなされました。
1つは、徹底したコスト削減と流通主導型によるマーケットの拡大。
2つめは、顔の見える流通と、木材の家づくりに関わる価値感です。

佐藤先生は、ここに3つのレベルで相反する動きがあると取りまとめられました。

  1. 『経済』と『環境』を調和させる仕組み
  2. 『グローバリゼーション』と『ローカリティー』、国と地域など・・
  3. 『超長期の森づくり』と『秒を競う木材産業』、伐採と持続可能な森林資源の保全・・

内容をがっぽり省いているので恐縮ですが、
私は、佐藤先生の意図された、『環境』、『ローカリティー』、『超長期の森づくり』の対立軸に関する議論が、適切なパネラーが参加していたにもかかわらず、ほとんど深まらなかったように感じました。

私が、このような印象を受けたのは、おそらく、下記の2点が要因のように思います。

  • 流通主導の林業が、経済的に、ほとんど『環境』『ローカリティー』『超長期の森づくり』を内部化できていない

根本的な問題として、ロシアやカナダと比較して、日本の草刈、枝打ち、斜面地作業を必要とする林業は、決定的に高コスト体質です。手厚い補助金を受けている林業が、世界一安い木材を産出していると単純にいえません。

加えて、零細の農林家が多く、台風や土砂災害、地球温暖化等の環境コストも考え合わせれば、立地や人的要因も絡み、森林は限られた資源です。

効率的な流通システムは必要ですが、一方で、環境を保全する強い政策、消費者を含めた地域の世論形成、環境ベースの新産業の育成などが無ければ、流通主導の林業は、世論や環境不在の山林荒廃を、再度もたらすのではないのかと懸念します。

次に、二つ目の要因として、

  • 保全と利用に関して、政策と森の将来像が十分に議論され、描かれ、共有されていない

個々のパネリストの方々は、コスト、流通システム、アジア志向、環境共生住宅、山主が誇りを取り戻す認証制度、流域連携など、最先端の取り組みを個々に話していただきました。

それでは、私達は、どういう森をつくり、どのような環境で生活し、子孫に繋いでいくのでしょうか?
残念ながら、この問に対する共有された世論に対するメッセージはありませんでした。

分野を越えて共有された計画が、協働と議論を深め、地域の自立を促していくのだと思います。
本日のシンポジウムでは、産官学民間の意思疎通不足がもたらす将来の不透明感を明らかにしていただいたように思います。

一方、諸塚村をはじめ、個々の取り組みの中に、そのモデルや成功例がたくさんありました。
地域資源保全としての取り組みが、大切だと再認識いたしました。