イングリッシュガーデン

asahiro2006-03-04


本日は大分のチェルシークラブの講演会にお呼びいただき、「英国における景観保全の取り組みとガーデニング」というタイトルでお話をさせていただきました。
チェルシークラブの皆様、本当にお世話になりました。ありがとうございました。

会場は、ダイヤモンドフェリー横のかんたん倶楽部さん。第一印象、ワクワクしました。
ここは一種のピア。波止場の倉庫を改装しており、イベントホール、2年限定リース型の店舗群、各種レストランなどの複合商業施設で、ウッドデッキの通路を抜けると海がバーンと開け、貸し自転車まであり、うみたまごまで30分弱だとか。表には、ガーデニングサロン「風の散歩道」さんが緑を飾り、手作り感、フレッシュ感のある、福岡のウォーターフロントとは一味も二味も違う、将来が楽しみなボトムアップ型のコミュニティー空間です。

さて、すばらしい会場でお話した内容は、普段の里山主体の景観保全話を総入れ替えし、「ガーデン・ヒストリー」としました。右の写真の文献を参考にしながら、

Roy Strong, The Gardens through the Ages (1420-1940), conran octopus, 1992.

15世紀から20世紀までのイングリッシュ・ガーデンにおける歴史の重層性を、私が2004年度に一年間撮りためた画像群を200枚のスライドに集約し、ご紹介させていただきました。

この文献は、次のようなロイ氏の書き出しではじまります。
「ガーデンを歩く度に、たった今、植えられたばかりのガーデンでも、私達は歴史を散歩しているのです。木製のパーゴラに華麗なツタが這い登る様子を見てジーキル女史やエドワーディアン・イングランドのカントリーハウスを思い浮かべるだけでなく、それはルネッサンス時代のイタリアを超え、古代ローマの別荘周辺に植栽されたガーデンまで遡るのです。」

植物の一つ一つ、生垣、トピアリー、階段など、ガーデンの全ての構成要素に起源があり、ガーデン様式の発展は、歴史の重層性を経て現在にいたっています。


Landscape(造園、景観)の分野に居る自分として、Horticulture(園芸)と、各種Conservation(保全)の歴史的背景を学び、現在のContext(文脈)を知ることはライフワークです。

ランドスケープの職能は、17世紀の英国の大規模庭園の造成に始まり、上流階級の没落と共に公園整備を行政が公共事業で行うようになってから、アメリカを中心に公共空間において一種の芸術活動・公共基盤整備として進化してきました。

園芸は、英国における18〜19世紀における定植技術、温室技術の発達による花材料の普及と、庭園に対する社会の情熱により発展してきました。もちろん日本も独自の庭園文化を有しています。

私は、このような経緯の中で現代において大きな2つの課題があると思います。

一つは、公共事業の縮小です。
労働力とコストが押さえられる中で、私達はどのように里山の農林業や庭園文化を継承・発展していけるのでしょうか。

二つ目は、デザイン・クオリティーです。
ガーデンについて言えば、ど素人の私は、どうしてこうも脈絡無く花ばかり植えまくるのだろうかと思っています。

英国のガーデンを見て回り、上記の文献を読んだ経験の中で、英国は、①を情熱で、②を歴史の重層性で解決していると感じました。
一方、日本は、商業ベースの種、苗の供給が先に立ち、ユーザー側の日本庭園と西洋ガーデンのデザインに対する歴史やマネージメントに関する教養教育が行われていないことが、質の向上しない原因ではないでしょうか。一般的に、ガーデニングは個人の娯楽であり、文化ではない(私達は文化と思っていますが)。だから、公共の公園やガーデンに対しても疎遠な付き合いしか成されない。管理は人任せ税金任せ。この、商業・公共・市民の文化的齟齬が大きなネックになっています。今後、公共事業が縮小する中で、緑文化の空白と虚無がさらに拡大することが懸念されます。

さて、今後、この2つの問題を解決するパラダイムとして、私は、Conservation(保全)の概念が、その中軸を成すべきだと考えます。何の価値をマネージメントしていくのか、そういう議論が、今後、ますます展開され、文化を発展させる民間、行政、市民のパートナーシップ事業が求められます。

ロイ氏は、現代を「郷愁の時代」と表現されていました。私たちの里山活動も、失われたふるさとや生き物へのノスタルジアなのかもしれません。であるのであれば、歴史や生態系の重層性の中で、さらなるプランニングと行動が必要になるのだと思います。

今回は、コンピューターの中の眠っている写真をガーデン活動をされている方々に見ていただき本当にありがたかったです。もし、ご要望があれば、出向きますので、声をかけてください。