園芸福祉全国大会を終えて 第四分科会報告

今日は、先日ご紹介した園芸福祉全国大会、第四分科会の報告を行いたい。

この分科会のタイトルは「田舎暮らしを楽しもう」をテーマにして、事例報告者の人選を行った。
なぜ、今、田舎暮らしなのか。根本的な原因は、昔、日本人の8割が田舎に住んでいたのが、現在、8割が都市に住んでいる状況に起因している。都市の過密化、農山村部の過疎化は、生業、土地、人口、ライフスタイルのあらゆる側面に歪をもたらし、バランスを欠いてきたからに他ならない。
田舎暮らし、スローフードスローライフは、その揺り戻しとして、社会的に必要とされている。単なるブームではない。

本会では特に、園芸福祉活動の実践報告に加え、若者世代の関わりを取り入れている。

第一報告者:平岡さん。
平岡楽農園という貸し農園を経営。「都会人が菜園を楽しみ、農家が楽をする」という意で命名されている。1区画100平米を100区画、80名の会員が活動している。農地法的には、「農園利用方式」を取り、11ヶ月で貸借関係を切り、毎回新規に更新するという方法。現在、全国の貸し農園の50%以上が、行政や農協が介在せずに農家が直接個人に貸し出すこの方式を取っているという。
この農園では、菜園活動を楽しむだけでなく、「雑木林里親の会」や、放棄みかん園を伐採しクヌギ、ウメを植栽したり、「ベリーベリー倶楽部」でブルーベリーを栽培しジャムを作ったり、「城山散歩道を作る会」で周辺の遊休農地を取り込み散策路を作ったりと様々なボランティア活動が展開している。
その鍵は、「農だより」という紙を媒体にした便りを会員に発送し、季節のお知らせだけでなく、諸注意などの連絡事項も明快に発信できているという。また、市民農園で農や季節の旬、味覚を感じてもらうことにより、連帯感が醸成されているとの事。
現在の課題は、地域に声をかけるがなかなか出てきていただけないということを指摘されていた。

私の所感:まず、初めてお会いした平岡さんが、私の叔母の大親友だったということは、ビックリしました。話を元に戻して、この農園は大変良い成功事例です。特に活動が菜園に留まらず、周辺農林地に展開されている点は、日本の里地・里山における、昔ながらの関わり方として連環ができています。ある意味、理想的ではないでしょうか。問題の地域に対しては、10年、20年、30年という実績の中ではぐくまれて行くものかもしれません。これは、私達の八女郡黒木町の活動でも同様です。

第二報告者:井上さん
朝倉の農家のあととり、現在27歳。本当は、家業を継ぐ気はなかった。しかし、地域の農地1300haに対し、50代の農家300人に対し、20代は4人という「担い手不足」の現状を受け決心されたとの事。
大切に育てた野菜をきちっと売れない現行システムに疑問を持ち、無農薬野菜を直接消費者に売るという視点で、有限会社クローバーという流通部門を立上げるとともに、天神BIVIビル3階に「スローフードレストラン スフレ」を2004年に開業。「旬」の美味しさを直接消費者に伝えるために、レストランを若者への新しいメディアとして活用している。また、体験つくし村を地元に開き、有機農業の大変さ、楽しさを体験を通じ消費者に伝える活動も展開。
提起される課題は一貫しており、都市近郊でも担い手の少ない現状に対し、将来の農業をどうするのかという点にある。農業への理解を広めると共に、農業が若者の一つの職業選択枝になり得るような、そんな経営基盤強化を進められている。

私の所感:園芸福祉の分科会報告に、井上氏を入れたのは、この、農業の現状を踏まえた活動が避けて通れないからである。都会で「花」「緑」「健康」を求めることは大切である。しかし、それ以上に、「食」「生業」「地域」「環境」を考えることはさらに大切である。ボランティア活動であっても「Be Proffesional」であるべきだ、との声は、BTCVのRoger氏からいただいたが、環境問題の改善にはこのスタンスがはずせない。このようなプロの民間と、NPO、行政のパートナーシップが、農業と園芸福祉の社会化をより推し進めるものになると考える。

第三報告者:小林さん
東京で国際ワークキャンプを展開する元NICEの事務局長、現在、熊本県の菊池で、閉校した中学校を利用した「NPO法人 きらり水源村」の事務局長。
「なぜ、若者は農村へ向かうのか」それは、団塊の世代を見て育った若者は、その都市生活の将来に希望を見出せないからである。現在、熊本に移り住み、夜は星があり、朝日が昇り、季節感ある田んぼの風景に夢が持て、今が、より、自分らしく生きている。と言われる。この話は、現代農業「若者はなぜ農村へ向かうのか」特集を拝読いただきたい。
このNPO法人は、地元の区長をはじめ330世帯が入り、神楽の継承、物販、市民農園ワークキャンプをを展開し、実践体験活動を提供しているとのこと。ポイントは、ソフトを優先して実績を作り、ハード後発で行政の支援をいただいていること。また、地域には様々な職能を有する方々がいて、まずは、地元でできることは地元で行い、+αでボランティアが補助し、最後に行政支援というかたちである。
今後の課題は、小林さんのような夢と希望のあるストーリーを作る役割を担う人材が必要であり、それが仕事として成り立つことが必要。人づくりを通し、若い人とのふれあいを通じた農山村の体験活動の普及が、これからの国づくりには大切。
また、次のような話題も提供いただいた。秋田県のある村でサルを撃退するというイベントを行政を挙げて実施しているとの事。地元の畑の被害は200〜300万であるのに、行政はそれ以上の経費をかけて運営している現状に質問を投げかけた。サルの被害から畑に出なくなった地元の人々が健康を害すようになり、町の病院が人であふれ、医療費負担が激増したとのこと。まずは、若い人との触れ合いをということで企画されたとの回答。園芸福祉の必要性は、都会に限らず農村でも同様である。

私の所感:小林さんと最初に出会って9年近くたつ。久しぶりに会う彼の物腰は柔らかく、地下足袋の似合う方になっていた。閉校した中学校の活用については、やはり、地元の方々を含めてNPO法人化を実現し、地元の活動展開を母体にしている点で成功事例である。また、ソフト優先という点も、合理的である。特に最後の話題は、この園芸福祉活動が、広く地域の環境問題とリンクしていることを示している。先の日記の里山体験ツアーでスギを植林したためにイノシシが農作物を荒らすようになったという松尾区長の話を紹介した。秋田も、ほぼ、同様の理由が主因と思われる。人の健康は、バランスの取れた健康な自然環境があって、支えられている。森作りをどうするのか、環境とどう関わるのか。サルの撃退だけでなく、全国各地の農山村が、この問題と格闘し続けている。農村に向かう若者は、見出そうとしている持続的な将来性を具現化するためにも、この問題解決の具体化が必要である。小林さんのような都市と農村、若者と高齢者のコーディネイターが、もっとたくさん、必要であろう。

第四報告者:近藤さん
群馬の倉渕に入られ、花作り、園芸福祉農園を経営。また、協会の普及活動にも力を入れられている。
もともと、長男の方の軽い知的障害をきっかけに、現在知的障害の方を雇用し、農業体験を提供。この結果、言葉や笑いが出てくるようになったとのこと。また、給料日の翌日は一日休み、次の出勤時にお土産を持ってくるとか。給料をもらう喜びを、本当に感じてもらっている。
現在の課題は、やはり、お金。経営の改善、あり方について、様々な活動をされている。特にポイントは、園芸福祉の活動は人々の健康増進に寄与する健康産業として働きかけなければならない。その、人材育成の場が、ここであるという言葉は、国のポリシーにコミットする、戦略的な視点であり、説得力を持つ。

私の所感:施設ではない、このようなかかわり方は、理想的であろう。先日、私達も農林体験の中で中学校の特殊学級の3名の生徒さんを受け入れた。が、学生にとっても私にとっても、それは、大変な仕事でした。この分野の社会化は、本当に力のいる分野である。経営に関する戦略的視点は、英国BTCVと同一であり、園芸福祉協会の動きは、中央省庁へのロビー活動として優れている。もしくは、優れた人材を有していると強く感じた。園芸福祉活動と医療負担の削減の関係性がより明快に示されれば、国の予算や介護保険料の使用方法は、当然シフトするはずである。このような視点が重要である。

さて、全体的に、本分科会では、現在主流の田舎暮らしを紹介したものではなかった。どちらかというと、田舎をフィールドとし、各種社会問題の解決へ寄与するそれぞれの仕事紹介である。
従来の農家ではない、また、ただ都会から移住して田舎を楽しむだけでもない。そこに暮らし、仕事場として、新しい市場を開拓し続けるこの方々の視点は、これからの時代に、必要不可欠である。
園芸福祉の活動は、現在、どちらかというと、都会に農地や空間がないから、花づくりをして健康をという論理である。しかし、これは、都会の論理であり根本的な問題の解決には不十分である。しかし、園芸福祉協会自体が、この点を認識し、今回、広く、学習活動を進めている点を拝見させていただいた。人材育成と普及をしめいとしている点も時代に即しており、そういう意味で、急速に発展していく可能性を感じさせていただいた。

私の考える里山保全活動強化より、はるかに先を歩いている。そのような点で、今後も学ばせていただきたい。