ボランティア保険と安全管理

本くらぶは、福岡県福岡市の中心部にある鴻巣山で活動する森づくり団体です。
http://www.kounosusatoyama.org/index.html

鴻巣山は福岡市最大の緑地保全地区で、もりもりとスダジイクスノキ、アラカシなどの常緑広葉樹が茂る森です。
かつては、近郊農村の里山として、竹や薪の採取に利用されており、樹木の樹齢は概ね40〜50年生の萌芽林(根元から数本の幹の株立ちしている樹木)の多い雑木林といえます。
この地域はヤブツバキクラス域に属し、植生はシイ・カシ萌芽林です。しかしながら、かつての明るい雑木林の名残として、ヤマザクラ、コナラ、クヌギ、カラスザンショウ、ハゼノキ、アカメガシワなどの落葉広葉樹も混交しています。
ところが、1950年代頃から薪としての伐採が行われなくなり、緑地保全地区に指定されてからは、なおさら、手の入らない森になりました。暖かい福岡では、関西・関東よりも速いスピードで、どんどんシイ・カシ類が枝葉を伸ばし、ヤマザクラなどの落葉広葉樹を被圧し、落葉樹のない、鬱蒼とした森に遷移しつつあります。
鎮守の森のような大きな木が育つのは、それはそれで良いのですが、一方で、明るい森を好む草本類や、蝶類、落葉樹が消失してしまっては、種の多様性が失われてしまいます。また、町の中にあり散策する人々も多いため、部分的には、ヤマザクラが咲き、かつ野趣のある森も、アメニティを考えると大切です。

前置きが長くなりましたが、本会は、このような落葉広葉樹種の保全を目的に、常緑広葉樹種を択伐し、明るい森づくりを部分的に進めています。町の中の森づくりでは、生き物が集うだけでなく、会の仲間も定期的に集まり、森の楽しみをいただいています。

さてさて、今日の打合せでは、2つの話題が私の印象に残りました。

ボランティア保険の変更について
私達は、これまで、誰が来ても100円〜300円払えば参加できる、M保険に入っていました。しかしながら、近年、森づくりボランティア活動の事故が増え、保険料が大幅に値上がりされたのです。ところが、毎回、30名とかたくさん参加すればよいのですが、そんなに実働人数が多くないために、支払いが困難になってしまいました。
そこで、S保険に切り替えようという話が出てきたのです。これは、年間一人500円程度でよいという格安のボランティア保険です。ところが、会の会員しか保険がきかず、その日に、突然参加する一般参加者に対しては、保険がきかないという代物です・・・・

森づくり活動は、この森の大切さを、森の楽しさを、新しい人にどんどん知ってもらいたいという動機があります。なのに、新しい人を連れてきても「あなたは会員で無いので保険がききません。だから、気をつけてくださいね。」と、なんとも、谷から突き落とすような事を言わねばならないのです・・・

ああ・・・、これでは、森づくりは広がらない・・・

しかし、よくよく考えると、筋は通っています。ボランティア活動といえども、リスクを伴う活動です。その自分の活動に関する経済的リスクをカバーするために、保険に加入することは、自己責任です。しかし、S保険にすると、新しい人に、会員になることを強制することになります。森づくり活動をしたければ、会員になりなさい。こんな商法は聞いたことがありません。せめて、体験サービスぐらいつけるものです。

結局、会はM保険からS保険に切り替えることにしました。会員でない新しい人には、「楽しく見学していってくださいね。」と言うことにしました。ううう・・・・、おまけをつけるといわれても、これでは、友達を誘えない・・・

そこで、賠償保険だけ、50人ぐらいを1年間ということで、別保険に加入したらいいのではないかという案がでました。これであれば、会員以外の人には、「自分の怪我は保険でカバーされませんので、自己責任で気をつけてくださいね。」と言えます。
S保険+○賠償責任保険。これが、当面の解決策のようです。

さてさて、私は、将来の解決策として、英国のシステムが必要だと思いました。あちらは、BTCVにしろ、Countryside Projectにしろ、トレーニングを積み、NPOや行政に雇用されたスタッフがリーダーとして参加します。初めて参加する地域の人たちは、彼らから道具の安全や現場のリスク指導を聞いて、書類にサインをするのです。この体制により、怪我をしても保険がおりるという仕組みです。

生態系の保全と、安全で楽しいボランティア活動、この両立を図るには、2つの活動形態があることになります。
① 会員だけによる活動。
② プロのリーダーと一般の参加者による活動。
日本は、ボランティアリーダーを雇用するというレベルに、未だ達していないため、同好会的な①の形態がほとんどです。今回、S保険に切り替えざるを得なかったのもそのためです。しかしながら、これでは、特に、新しい人々を巻き込むという活動使命が果たされません。ただでさえ、新規会員の確保は難しいというのに、困ったことです。日本のボランティア活動が広まらず、かつ、同好会的な活動が多く、より一般化、社会化しないのは、こういった点にも課題を抱えているのでした。私は、②のシステムについて、今後、日本のNPOや行政機関は、検討すべき時期にあると考えます。また、M保険は、参加者の多い一発イベントには大変良いのですが、継続的な活動をする団体には不向きです。
この現状は、運営・保険の両面から改善すべき課題でしょう。

■森づくり活動の安全管理
あ〜、長々と書いていますが、大事なことなので、もう少しお付き合いください。
今日の2つめの話題は、樹木の伐採にかかる安全管理についてでした。会員の構成は、大きく、三種類に分けることができます。新しい会員、古い緑を仕事にしていない会員、そして、緑を仕事にしている会員です。
森づくりボランティア活動をするなかで、この三番目の、緑の仕事を普段されている会員の存在は、大変ありがたいものがあります。いざ、かかり木をしてしまった際など、この方々の技術が無ければ、にっちもさっちも行かないことがままあります。

ところが、最近、二番目の古い緑を仕事にしていない会員が、「あ〜、その作業あぶないよ〜」と声をかけても、三番目の緑の会員は「大丈夫、大丈夫」と言ってしまうそうです・・・

作業の安全管理は、素人が危なくないと感じるレベルに合わせてもらわないと、一番目の新規会員なんかすぐやめちゃうよ〜・・・というご意見です。 ごもっとも。
一方、緑の会員は、プロであり、現場判断として「大丈夫」と判断を下しているのです。

さてさて、緑のボランティア活動のリスク管理、グループ・リーディングをどのようにすべきなのか。これらの点について、会は、明確なルールを決めていませんでした。

当面、代表のアイデアで、次の三つを行うことにしました。

① 代表の判断で、危ないと指示した場合は、それに従うこと。従わないものは、帰ってもらう。と言う。
② 伐る予定の樹木には、テーピングをし、それ以外の樹木は伐採をしない。
③ 活動手順のチェックリストを作る。

です。①はチームの危機管理力の強化、②は伐採樹木の事前のリスクを評価、③は活動中の管理強化です。当面は、きっと、これで、指摘された問題は低減されると思います。

しかしながら、リーダーやボランティアの能力を担保し、スキルアップさせるものではありません。
この点について、私は、やはり、プロとしてのリーダーを養成し、会員みんなが、リーダーとして、その役割を付託できる人材を確保する必要があると思います。

静岡のS-GITは、それを市民団体で実施している数少ない事例です。2月には、福岡で技術習得制度のモデルコースを森づくりフォーラムと企画しており、このような普及啓発活動が必要でしょう。

しかしながら、S-GITが行っているように、会の活動の安全は、会における経験に裏打ちされた構成員の技術能力により担保されます。

外で、認証を貰っているからといって、会のリーダーとしてふさわしいとはいえないのです。
それは、緑のプロは、作業のプロであって、森づくりボランティア活動のプロではありません。
活動の管理技術は、森の植生、参加者の属性で異なります。

これらのことを解決する一つの方向性として、私は、人材の技術向上を継続的に支援する、中間NPOが必要であると考えます。森づくりの資源は、人であるべきです。安全で楽しい活動をマネージメントできる人。そういった人づくりが、森づくりを強化する。その他の様々な活動を強化できる。そのようなことを、再確認したところでした。